7月20日(金)、文化審議会は新たに209件の建造物を国の有形文化財に登録するよう答申しました。鳥取県内では5件が新規答申の対象となり、年末には官報告示を受ける予定です。5件のうち倉吉市河原町の旧小倉家住宅(現空家)は2016年から環境学部浅川研究室が調査研究に取り組んできたものです。調査の結果、主屋は昭和11年(1936)、土蔵は大正4年(1915)の建築であることなどが分かりました。
鉢屋川と旧小倉家界隈の町並み
浅川研究室は2000年代前半より倉吉の町並みに関する調査に着手し、2010年には打吹玉川重要伝統的建造物群保存地区の拡張に貢献しました。その後、県環境学術研究費助成「倉吉打吹山麓の歴史的風致に関する総合調査」(2013-15)では、町外れにあたる河原町・鍛冶町にフィールドを移し、2冊の報告書を刊行しました。2016年には、地元より旧小倉家住宅を登録文化財にしたいとの申し入れがあり、河原町での調査を再開したのですが、同年10月に発生した県中部地震のため登録申請の準備は頓挫を余儀なくされました。2018年初になって、ようやく研究室の調査成果を眞田廣幸氏(倉吉市文化財協会会長/「鳥取学」担当本学非常勤講師)がまとめる形で申請を終え、このたびめでたく文科大臣に答申の運びとなりました。
旧小倉家の側面を流れる鉢屋川は中世城下町の外濠であり、小鴨川の清流を引き込んで町全体に清涼感をもたらしています。また、角地の路肩に東地蔵を祀り、毎年8月23日には地蔵盆の舞台となってにぎわいます。鉢屋川・辻・地蔵と複合した旧小倉家の周辺は有形・無形の文化遺産が融合した歴史的風致の核であり、映画「男はつらいよ」シリーズ第44作「寅次郎の告白」(鳥取篇)では、マドンナ(後藤久美子)が小倉家の前を歩くシーンがあり、池本喜巳の写真集『近世店屋考』(2006)でもこの界隈の俯瞰写真を掲載するなど、鳥取県内有数の町並み風景地として知られています。浅川教授は1・2年生を対象とするプロジェクト研究「寅さんの風景」を昨年から始めており、6月には旧小倉家の前でのロケ地再現撮影をおこなったばかりでした。
災害と登録制度
以下は浅川教授のコメントの要約です。
「登録」とは文化財の表彰制度であって、維持修復のための補助金が出ない仕組みになっています。今回の答申を含めると、登録文化財(建造物)の総数は11,981件(47都道府県925市町村)にもなりましたが、これを「成功」だと楽観視してばかりはいられません。補助の手薄さ故に、登録された建造物が解体されるという報道も耳にするようになってきたからです。
そもそも登録という制度は、阪神・淡路大地震(1995)で被災した未指定文化財建造物を救えなかった反省に端を発しています。当時の文化財保護法には「指定」の制度しかありませんでした。指定の対象以外には補助ができなかったということです。そうした反省から、翌2016年に「登録」の制度が誕生したわけですが、それは災害などの非常時には補助の対象になることを目論んだものだったはずです。じつは旧小倉家住宅も県中部地震により壁の剥落と屋根瓦のずれが生じており、今なおブルーシートで覆われた状態が続いています。また、本年7月7~8日の集中豪雨では、日本最大の登録記念物「摩尼山」の参道で大規模な土砂崩れが発生しました。こうした登録文化財・記念物の被災に対しては、阪神・淡路大震災での反省から出発した文化財保護の制度なのですから、国や自治体の積極的な支援を期待する次第です。もちろん、修復・活用のための募金活動も住民とともに継続していきます。皆様方のご支援をお願いする次第です。
関連リンク先
(浅川研究室ブログ):
旧小倉家住宅が登録有形文化財に答申!
今年も、寅さんの風景(9)
今年も、寅さんの風景(13)
登録記念物「摩尼山」被災(1)
登録記念物「摩尼山」被災(2)